高校を卒業すると大学や専門学校に行く人が増えてきた昨今、いまだになかなか進学することが難しい子どもがいます。児童養護施設のこどもです。
しかし、どうして児童養護施設の子どもは大学進学が難しいのでしょうか?
よく「お金」についての問題がありますが、実はそれだけではありません。
ここでは、大学の卒業論文でもこのテーマを取り上げた施設出身の私うらこが、児童養護施設出身者の大学等進学について解説していきたいと思います。
児童養護施設から大学進学する子どもの割合
児童養護施設から大学に進学している子どもは非常に少ないです。
2017年度の資料によると、全国の高校の卒業後の進路において大学や専門学校への進学した人は73%(大学52%、専門21%)に対し、児童養護施設の子どもはわずか23%(大学12%、専門11%)でした。
高校を卒業したら進学というのはほぼ当たり前になってきている状態で、児童養護施設のこどもはまだまだ半数以上が就職という立場を取っています。
児童養護施設の大学進学が難しい4つの理由
児童養護施設から進学が難しい理由はケースバイケースですが、私の感じる大学進学について難しい理由は以下の4つです。
理由①お金がない
まず1つ目は、経済的な問題です。
これはほとんどの子どもが逃れることができない問題です。
日本の大学の費用は、国立だと年間50万円前後、私立だと年間100万円前後です。専門学校だと年間120万円前後が一般的です。
また、学費だけではなく児童養護施設の子どもは施設を出所すると一人で暮らさなければならない子どもも多く、1人暮らしの生活費用なども一緒にかかってくるため、その分のお金もどうにか賄うことが必要になります。
そのため、お金の問題でつまずいてそもそも進学するということを諦める子どもが多いです。
理由②進学への意欲が湧かない
2つ目は、そもそも進学することに意欲が湧かないことです。
これが結構大きな問題だと思います。
厚生労働省の調査では、児童養護施設に入所している高校3年生に進学の希望を聞いたところ、約63%が「進学を考えていない/進学しない」と答えています。
実際に私が卒業論文で施設出身者の方にインタビューをしたところ
- 「そもそも勉強が嫌いなので考えたことがなかった」
- 「進学のメリットがない」
という回答が得られ、勉強や進学に対して価値を感じられない課題が見えてきていました。
児童養護施設にいる人は、大人が苦手な人が多いです。その大人たちが口を揃えて「勉強しなさい」と言うのであれば、やる気も失せます。
加えて、進学することでお金の問題で苦労することがわかっていながら、わざわざそんな茨の道へ進もうだなんて思う人はほとんどいないのです。
近年では虐待等による子どもの低学力や、発達障害児の増加もあるため、より進学を考えにくい状況に置かれています。
周囲からの協力が得られにくい
児童養護施設から進学をするとき、ほとんどの大人は最初は進学に対して否定的になることが多いです。
私も当初「進学したい」と言った時、学校の先生と里親から「難しい、就職しなさい」と言われ、大きなショックを受けたのを覚えています。
今だからこそ優しさがわかるのですが、無責任に「できるよ!」と言って過度な期待を持たせると、かえって深く傷つけてしまうことがあります。
進学の苦労が今後数年後まで見えているからこそ、現実的ですぐに足場を固められる就職を進めるのだと思います。
ただ、当時の私や進学したい気持ちを持っている子どもにとっては「応援してもらえない/認めてもらえない」と感じてしまい、そのまま「じゃあ、諦める」となることもあるのです。
現在昭和大学で教授をしている永野咲さんの、大学院時代の論文「児童養護施設で生活する子どもの大学等進学に関する研究 」においても、実際のインタビューを通して、児童養護施設の子どもの進学は「意欲」や「(経済的)条件」の他に、「養育者との関わり」が非常に重要なポストにあることが示されています。
職員と具体的な話を進めるまでの、信頼の構築がそもそも難しいですからね、、、
1人の児童を優遇することができない
児童養護施設は大勢の子どもが一緒に生活する場のため、誰か1人の子どもを際立って優遇したり、特別なことを認めるというのは認められにくいです。
例えば、進学したいという子どもが塾に行きたいと言っても、その子だけを特別に塾に通わせることは、他の子にとっては「勉強ができる子だけ特別扱いしている!」とヘイトを溜めてしまうことにも繋がりかねないのです。
私は「友達が通っている塾に行きたい」と施設の先生に相談しましたが、許可されることはありませんでした。
自分で本を読んだり独学することができますが、教材や塾といった協力をお願いしても受けられないと、塾に行ってる友達が羨ましかったです。
(なので、塾に行っていない子より良い点数を取って、「塾に行ってるのにこんなのもわからないの?」という嫌味やマウントを取っていた時期もありました、、)
当時は大学のオープンキャンパスなども何校も行けるわけではなく、大学が遠ければ引率の先生をつける必要性があり、行きたい大学や専門学校の雰囲気を見ることすらままなりませんでした。
里親制度においては進学率は高い
児童養護施設ではなく、家庭で子どもの養育を行う里親の子どもは、子ども1人に注力して協力や支援が受けられやすいためか、約50%の子どもが進学しています。
私は高校卒業時には里子だったので、政府の統計的には里親委託児の進学率に加えられますね(少し複雑)。
私はオープンキャンパスで大学を下見に行く時、夜行バスを使って行きましたが、恐らく児童養護施設にいたままであれば夜行バスさえ乗らせてくれなかっただろうと思います。
また、親族が里親になる親族里親もあるので、より支援をしやすい環境もあります。
融通は圧倒的に里親家庭が効き、進学には良い効果をもたらす傾向はあるかと思います。
進学できたとしても、うまくやっていけるかは別問題
大学に行くということは、措置解除され社会で生きることです。
今まで全て守ってくれていたものがなく、1人で順応しながら、大学生活も送り、傍ら学費のためにバイトを続けるということ、理論的には可能ですが実際やってみるとものすごく難しいのです。
さらに、大学には親に学費を出してもらう・仕送りをしてもらう・夏休みには海外旅行に行く友達など経済格差がより見えてくるので、現実をわかっていながらも自分の中のドス黒い感情をどうしたら良いかわからなくなります。
何か困ったり、体調不良で大学を続けられないかもというとき、奨学金は休学や留年にほとんど適用されないのでその手段を取ることもなかなか難しいです。
私はお金の管理もずさんになりがちでした、、、
今まではきっちり管理されていたお金ですが、措置解除とともに全て自分が操れるようになります。
私はこれで、多くの大失敗をしてきました。
せっかく振り込んでいただいた給付金や奨学金だって、手元に大きなお金があってちゃんと貯蓄できる自律性が私にはなかったのです。
すぐに浪費癖がつき、散財することでストレス解消をしていました。
うまく活用してしっかり基盤を保つ素晴らしい施設出身の人もいるので、私だけの問題であれば良いですが、もし他にもそういった人がいるのであれば「お金を支給するだけ」というのもまた課題になってくるのかなと思っています。
児童養護施設の大学進学を叶える4つの方法
児童養護施設の大学進学の難しさを説明しましたが、それではどうすれば進学を叶えることができるのでしょうか。
ここからは、進学の可能性を大きくする方法をいくつかお話します。
進学を叶える①給付金・奨学金を利用する
お金のことに関しては解消されつつあるということをお話しましたが、どんどん支援は増えています。
大きな給付制度として、以下2点があります。
- 厚生労働省の「自立支援資金貸付事業」
- 文部科学省の「修学支援新制度」
進学をしたい人、今大学にいる人はぜひチェックしてみてください。
自立支援資金貸付事業
自立支援資金貸付事業は、児童養護施設や里親家庭など、社会的養護を受けていた子どもの自立を支援する制度です。
進学者には、家賃相当額(※生活保護の住宅扶助額上限)と月額5万円の生活支援費が卒業まで貸付される、大きな経済支援になります。
例えば家賃5万円で大学に通っている場合、年間60万円の家賃補助費用と年間60万円の生活支援費、合わせて120万円が1年を通して受け取ることができます。
支援が私立大学の学費相当分に当たるので、生活費のみにバイトに注力できますね。
これは進学だけでなく就職にも適用され、「貸付事業」とは言っても、就職したあとに5年間働くことで返還が免除されます。
この制度は各都道府県の社会福祉協議会が主体となっているので、施設や児童相談所の方を通してぜひ申し込んでください。
・家賃貸付として家賃相当額(生活保護制度における当該地域の住宅扶助額を上限)
・生活費貸付として月額5万円
・貸付期間:正規修学年数
・家賃貸付として家賃相当額(生活保護制度における当該地域の住宅扶助額を上限)
・貸付期間:2年
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/000503210.pdf
修学支援新制度
2020年4月に拡充され、新しくなったこの修学支援新制度。
支援の対象となると、大学等に収める授業料または入学金から、次の各表に示された金額が免除・減額されます。
<入学・授業料免除>
- 昼間の学校の免除額
入学金(国公立) | 授業料(国公立) | 入学金(私立) | 授業料(私立) | |
大学 | 約28万円 | 約54万円 | 約26万円 | 約70万円 |
短期大学 | 約17万円 | 約39万円 | 約25万円 | 約70万円 |
高等専門学校 | 約8万円 | 約23万円 | 約13万円 | 約70万円 |
専門学校 | 約7万円 | 約17万円 | 約16万円 | 約59万円 |
- 夜間の学校の免除額
国公立 (入学金) | 国公立 (授業料) | 私立 (入学金) | 私立 (授業料) | |
大学 | 約14万円 | 約27万円 | 約14万円 | 約36万円 |
短期大学 | 約8万円 | 約20万円 | 約17万円 | 約36万円 |
専門学校 | 約4万円 | 約8万円 | 約14万円 | 約39万円 |
- 通信学校の免除額
通信制 | 私立(入学金) | 私立(授業料) |
---|---|---|
大学 | 約3万円 | 約13万円 |
短期大学 | ||
専門学校 |
<給付型奨学金>
- 昼・夜間学校の給付金額
昼・夜間制 | 国公立 (自宅生) | 国公立 (自宅外) | 私立 (自宅生) | 私立 (自宅外) |
---|---|---|---|---|
大学 | 29,200円 (33,300円) | 66,700円 | 38,300円 (42,500円) | 75,800円 |
短期大学 | ||||
専門学校 | ||||
高等専門学校 | 17,500円 (25,800円) | 34,200円 | 26,700円 (35,000円) | 43,300円 |
生活保護世帯で自宅から通学する人及び児童養護施設等から通学する人は、カッコ内の金額となります。
- 通信学校の給付金額
通信制 | 私立(自宅生) | 私立(自宅外) |
---|---|---|
大学 | 51,000円(年額) | |
短期大学 | ||
専門学校 |
授業料の減免は、8〜70万円の減額、給付金は月額17500〜75800円を給付されます。
給付型奨学金がいくらもらえるかや、免除の対象になるかわからない人は
シミュレーションもあるのでぜひやってみてくださいね。
進学を叶える②めいっぱい勉強をする
もし勉強が苦手であれば酷に聞こえるかもしれませんが、勉強をめいっぱいすることで、受けられる支援がより広がります。
例えば、大学入試において優秀な成績で合格した場合、その大学独自の給付金制度で学費が全額免除になったり、一部を免除してくれる場合があります。
私は初年度のみ、学費が一部免除になったので本当に助かりました。
特にこういった大学独自の学費免除制度は医学・薬学の学校で見られるので、学費の高い学校を受けるときは事前に調べておきたいですね。
勉強だけではなくとも、例えば無遅刻無欠席だった、資格を取得している、など大学によって制度が多彩です。
進学を叶える③逆算してアルバイトを行う
もし高校生のうちにアルバイトが可能であれば、アルバイトは資金としてぜひ貯金しておきたいです。
大学に入ってからの支援はたくさんありますが、大学に入るまでにもお金がいくらかかかり、その時に支払わなければなりません。
例えば1人暮らしの賃貸の契約や、大学区合格してからの初年度の学費振込は、奨学金を受ける前に支払う必要のあるものです。
ざっと調べてみましたが、児童養護施設の高校生への支援はどれも進学支援が多く、高校在学中に受け取れるものは無いかと思います。
(一般家庭への給付金や、あしなが育英会などは省き、社会的養護下の児童に向けたものを探しています…あったら教えて欲しいです!)
家の契約に10〜30万、初年度の学費の支払いに50〜100万…
奨学金や給付金が振り込まれるのがいつで、それまでに払わなければならないお金を計算してから、逆算してバイト代を貯めるとなお良いです。
進学を叶える④自分の将来を、計算して大人に話す
これが一番大事なことだと思いますが、自分の進路や将来についてを紙に書き出し、施設の先生など周囲の大人にしっかり話をしましょう。
児童養護施設や里親、児童相談所の良いところは「頭ごなしに子どもを否定しない」ことです。話があると言えば、話を聞いてくれます。
最初は、進学するというと否定されることがあるかもしれません。
ですが、進学にどれだけお金が必要で、どれだけのお金を今自分が持っていて、足りない分はどうしていくかをちゃんと目標立てて話して意見を伝えると、必ず理解をしてくれると信じています。
もし、それでも納得されないのであれば、ここのお問い合わせでも良いのでぜひ相談してきてください。一緒に考えましょう。
まとめ
児童養護施設から進学していくことの大変さ、課題、その対策について解説しました。
調べてみると、給付金の拡大のお陰で今はかなり経済的には楽になっていることが私はホッとしました。私はおとなげがないので羨ましいという気持ちもありますが、思ったよりも早く拡充されて良かったです。
ちょっと対策についてはふわっとしているかと思いますが、詳しい私の体験談も記事にしているので、実際どのようにして進学したかを知りたい人はこちらの記事も合わせて読んでみてください。
ここについては後ほど詳しくお話していきますが、徐々にお金の面についてはかなり楽になってくるようになると思います。